離婚の基礎知識⑱ ~財産分与について その2~(財産分与の手順、財産分与を有利に進めるポイント)
2017.11.08【財産分与の手順】
① 資産価値のある財産をリストアップ
財産分与は、資産価値のある財産を対象にします。
資産は、預金などの「プラス財産」だけではなく、住宅ローンなどの「マイナス財産」も含まれます。
プラスとマイナスを集計して、トータルの資産価値を算定します。
≪プラス財産≫
・現預金
・不動産
・自動車
・貴金属や高価な美術品、家財道具など
・株式などの有価証券、ゴルフ会員券など
・生命保険、学資保険
≪マイナス財産≫
・住宅ローン
・自動車ローンや学資ローンなどの借入金
・配偶者個人の負債であっても、もう一方の配偶者が連帯保証人となっている借入金
② 共有財産と特有財産を分ける
資産価値のある財産をリストアップしたら、その財産が夫婦の「共有財産」なのか、どちらか一方の「特有財産」なのかを選別します。
「共有財産」とは、婚姻期間中に夫婦が共同生活を営むなかで協力して築き上げた財産で、共有財産とならないものを「特有財産」と言います。
婚姻前から各自が有していた財産や別居後に得た財産などは「特有財産」であり、財産分与の対象とはならず、それぞれの財産となります。
従って、①でリストアップした財産の中から特有財産は取り除くことになります。
≪特有財産となるもの≫
・結婚に際して実家から持ってきた嫁入り道具
・結婚前に蓄えていた預金
・結婚前あるいは結婚中に相続などの特殊な理由で取得した財産
・結婚前から所有していた不動産であれば、そのテナント料などの収益
③ 財産分与額を計算する
財産分与の対象となるプラス財産とマイナス財産を把握した後、プラス財産からマイナス財産を差し引き、そこで残った額が財産分与の対象額になります。
これに夫婦それぞれの寄与度を反映させた金額が財産分与額になります。
④ 具体的財産分与の取り決め
共有財産の多くが現預金の場合はあまり問題になりませんが、不動産など分割ができない財産がある場合には、どちらか一方がその財産を取得し、財産分与額との差額を支払うことで調整することになります。差額の支払いで調整できない場合や双方にその財産の取得を望まない場合には、その財産を売却して得た代金を分けることになります。
【財産分与を有利に進めるポイント】
財産分与の対象となる「資産」をどう把握するかで財産分与額が大きく変わってくることがよくあります。そこで、それぞれの資産ごとにきちんと把握して、財産分与を有利に進めるポイントを説明します。
① 預貯金、株式、債権、証券その他の金融資産について
離婚しようと決意したら、離婚を切り出す前に、まず相手の名義になっている預貯金、株式、債権、証券その他の金融資産などをしっかり把握しましょう。
しっかり把握しておかないと、相手が隠してしまったり、財産分与の対象から漏れてしまい、不利な内容で合意することになってしまいます。
離婚を切り出す前に、どの銀行のどの支店に口座を持っているのか調べておき、可能であれば通帳のコピーを取っておきましょう。
② 不動産の評価額について
婚姻後に取得し別居時に存在する不動産が財産分与の対象となります。不動産の取得の一部(頭金又は繰上返済金)が一方の特有財産から支払われている場合、あるいは一方若しくは双方の親からの贈与金が充てられている場合には、不動産の取得価格に占める特有財産の割合を控除して財産分与の対象となる割合を計算する必要があります。
不動産の価格は、市場の動向により変動しますが、財産分与においては、離婚成立時の評価額を基準にして計算します。
不動産会社に依頼すれば、通常は無料で査定してくれますので、どのくらいの評価額なのか確認しておくことをお勧めします。
すずらん探偵事務所にご連絡いただければ、無料で信頼できる不動産会社をご紹介させていただきます。
③ 住宅ローンについて
住宅ローンの残額は、マイナス財産として財産分与の対象になります。
住宅ローンが残っている場合、ローンの名義人になっている配偶者がそのまま住み続ける方向で決着することが多いようです。これは、不動産の名義変更には金融機関の承諾が必要であり、ローンの名義変更は金融機関が難色を示すことが多いからです。
しかし、例えば、不動産や住宅ローンの名義人は夫のままにしながら、夫婦の間で「子供が成人するまでは、妻と子供が無償で使用できる」といった合意を交わせば、夫が家を出る一方で、妻と子供は家に残って住み続けることが可能になります。このような方法をとれば、夫としても不動産が自分名義の財産として残り、ローンを払い続ける意欲が持てるため、妥協を引き出しやすくなるといえます。
④ 退職金について
既に支払われている退職金は、同居期間の年数分に応じた部分のみが、共有財産になります。そのため退職金支給額を単純に二分の一に分けるのではなく、同居期間の年数を反映した計算式によって財産分与額を算出します。
夫がまだ定年退職していない場合での退職金については、将来、退職金を受領できることがある程度確実な場合には、財産分与の対象となるとした判例があり、実務ではそのように運用されています。
具体的に「受領できることが確実」と言えるのは、会社に退職金制度があり、かつ、退職まであと数年という場合です。
将来的に支払われる退職金の場合、実際に分与が行われるのは、退職金が支払われた時点になることが多いようです。
⑤ 生命保険・学資保険について
生命保険・学資保険も共有財産です。これらの評価額は、別居時における解約返戻金相当額が基準となります。現実に解約する必要はありません。
なお、生命保険については、通常、配偶者が受取人になっていますので、離婚後も加入し続ける場合には忘れずに名義変更をする必要があります。
学資保険については、離婚後、子供を引き取った方が名義人となり、支払いを継続する方向で協議することが多いようです。
すずらん探偵事務所にご連絡いただければ、無料で相談ができる信頼のおける保険会社をご紹介させていただきます。
⑥ 借入金などのマイナス財産の取扱いについて
プラス財産からマイナス財産を差し引いた金額がマイナスとなる場合には、実務上、財産分与は行われません。財産分与は、最終的にプラス財産が残った場合にそれを公平に分けることを目的とした制度だからです。
そのため、トータルでマイナスになる場合に、相手に対してマイナス財産の分担を請求することはできません。
⑦ 資産価値はないけど、大切なものについて
ペットや趣味の収集品などで、他人から見たら資産価値がないものでも「自分にとってはたいせつなもの」は、共有財産とは別にリストアップしておくようにしましょう。
なぜかというと、離婚協議が合意に達すると、離婚協議書に「清算条項」という項目を設けて、財産の清算が完了したことをお互いに確認します。そうすると、離婚後、相手が任意に応じてくれない限り、必要なモノを取り戻せなくなってしまうからです。
「自分にとって大切なモノ」を回収するまで、離婚協議を成立させないようにするのも、交渉のポイントの一つと言えます。
⑧ 配偶者の経営する会社名義の財産分与について
夫婦の一方が会社を経営しているとき、この配偶者と経営する会社とは法人格も名義も異なります。そのため会社名義の財産は、基本的には財産分与の対象とはなりません。
例外的に、配偶者が会社を設立したタイミングによって、その会社の株式が共有財産になることがあります。例えば、配偶者が婚姻中に共有財産の現預金から出資して会社を設立した場合や増資した場合には、取得した株式は共有財産となります。
なお、会社の規模が小さく、夫婦で切り盛りしている商店のような場合には、例外的に会社名義の財産も共有財産と評価される場合があります。
⑨ 名義変更を忘れずに!
財産分与とは直接関係がありませんが、不動産や自動車について、所有者の名義変更が必要な場合は、離婚時に忘れず行うようにしましょう。
また、携帯電話やクレジットカードなどの引落口座についても、同様に変更すべき場合があります。